スクール特集(明星高等学校の特色のある教育 #1)
「見える学力」と「見えない学力」を養い次の100年に向けて礎を築く
97年の伝統を大切に受け継ぎながら、21世紀型の先進的な教育に取り組んでいる明星中学校・高等学校。今年4月に就任した福本眞也校長が、明星の今と未来の展望を語った。
2020年4月、明星中学校・高等学校の校長に就任した福本眞也先生。過去にはベネッセの教育事業で手腕を発揮し、2016年度より同校の副校長に着任すると学校改革を推進。2020年度では、東京大学、一橋大学、東京医科歯科大学、東北大学などの難関国立大学に合格者を出すなど顕著な成果が表れている。今回は福本新校長に、明星の教育の特色や今後の抱負について話を聞いた。
進路指導のシステムを作り、大学進学実績が大幅に向上
教師が生徒1人ひとりに向き合う「てしおの教育」、「体験教育」、「心の教育」を教育活動の柱に据えて、自立した生徒の育成を図っている明星中学校・高等学校。近年は、ICT教育やSTEAM教育*など先進的な教育を次々に取り入れ、21世紀型スキルの養成に力を注いでいる。
このような学校改革を推進してきたのが、2020年度、校長に就任した福本眞也先生だ。福本校長の経歴を簡単に紹介すると、熊本県の進学校である熊本高校の進路部長を務め、その後、ベネッセに転職。進研ゼミの改革を成功に導き、執行役員・教育事業本部長を経て、教育コンサルタントの代表へ。2016年、副校長及び進路指導のシニアアドバイザーとして同校に着任し、高1の学年主任も2年連続で務めた。
福本先生が最初に取り組んだのが、高校3年間のグランドデザインを作ることだった。「進路支援のシステムを作成し、教科の取り組みや行事なども学年のシラバスに落とし込んで生徒たちにオープンにしました。また。ハイレベルな学習を行う『MGS(Meisei Global Science)クラス』や、習熟度別の特別授業なども新たに取り入れ、1人ひとりの学力、適性に応じた指導の仕組みを作りました」
進路支援は、高1の早い段階から生徒たちが自分の将来像を描けるような環境づくりや指導を行い、文理コース選択に向けた適性検査を実施(Plan)→定期的に外部模試や検定を受ける(Do)→13名の進路指導のプロが、生徒1人ひとりの学力を総合的に分析し、個々の特性に応じた学習計画や入試対策を行う(Action)→個人診断レポートや模試の結果をもとに、志望校に合わせた「やるべきこと」を分析し、個別に指導する(Check)、という流れで行われる。
このようなきめ細かい進路指導と、それに連携した教科指導、さらに補習や講習会、入試対策講座などの学習支援も手厚く実施。その結果、進学実績が大幅に向上した。2020年度の大学入試では、東京大学(理科Ⅰ類)、一橋大学(商学部)、東京医科歯科大学、東北大学(人文科学部)などの難関国立大学に合格者が出ており、ここ数年大学が定員数を減らすなかで、着実に合格者を増やしているのは、大きな成果と言えるだろう。
*STEAM教育…Science(科学)、Technology (技術)、Engineering(工学)、 Art(芸術)、 Mathematics(数学)の総称。1つの科目だけでなく複数の科目を結び付けて学ぶ教育のこと
▶︎福本眞也校長
「見えない学力」と「人間力」を育てる体験教育
先生たちの細やかな指導「てしおの教育」とともに、同校の教育活動の原点といえるのが、「体験教育」だ。体験のプログラムは、イングリッシュ・キャンプ、長・短期の海外留学、アメリカのダンサーやミュージシャンと一緒にミュージカルを創り上げる「ヤングアメリカンズ」、5つの実験室や天体観測ドームなどの施設を活用した理科の実験・観察、社会人の仕事観に触れる「シゴトのチカラ」、世界で活躍する人が授業を行う「世界のトビラ」、ボランティア活動など、多岐に渡る。
「社会で活躍できる力を育てるには、テストの成績や偏差値といった『見える学力』だけでなく、創造力や表現力、コミュニケーション能力、学ぶ意欲などの『見えない学力』や、『人間力』を養うことが大切です。豊富な体験は、見えない学力を育て、それが土台となって見える学力も育っていくのです」と福本校長。
また、STEAM教育をはじめ、大学と連携した体験学習にも力を入れている。具体的には、中3のMGSクラスを対象に東京農業大学と生物学の連携授業をい、高1ではプレゼンテーション講座などを実施。「東京農業大学の授業では、メダカの透明骨格標本を作り、大学の研究室へ訪問もします。プレゼンテーション講座は、大学の先生を招いて講義を受け、自分たちでテーマを設定し、まずはグループで発表。そしてクラス、学年全体へと、ステップアップしていきます。プレゼンテーション力をつけると、アクティブ・ラーニングの授業も活発に進みますね」
さらに明星の体験学習は、体験だけで終わらず、事前学習から体験後の発表まで、系統立てて行うところに特色がある。「たとえば高2の修学旅行は、ニュージーランド、ベトナム、台湾の3か国から行きたい国を選び、1年前から文化や歴史を調べ、『現地で何をするか?』、自分たちで計画を立てます。旅行後は、学んだことを文化祭で展示・発表をしたり、模擬店でその国の料理を提供したりします」
このような体験教育は、「大学の推薦入試やAO入試を受ける時にも役立ちます」と福本校長は言う。「生徒たちは様々な体験をしているので、表現できることをたくさん持っています。また、自身でe-ポートフォリオを記録しているから、振り返りもできる。昨年は、ある生徒が推薦入試でボランティア活動について語り、合格を手にしました」
明星で好きなことを追求し、人生の土台を築いてほしい
これまで率先して学校改革に取り組んできた福本先生だが、校長に就任した今、改めてどのような教育を目指しているのだろうか。
「私は熊本高校にいる時から、生徒たちに『人生は自分で切り拓かなければ、誰も作ってくれないよ』と伝えてきました。本校の生徒にも、自らの手で『21世紀に活躍できる力』を身につけてほしいですね。中高の6年間は、社会に出るまでの基礎を固め、人生の土台を築く大切な時期です。だからこそ、人間力が重要になる。もちろん基礎学力は必要なので、丁寧に指導はしていきますが、加えて、自分の好きなこと、夢中になれるものを見つけ、追求してほしいのです。そのために学校は、体験や行事などたくさんしかけを作っていきます。
本来、教員がすべきことは、生徒たちにいろいろな選択肢を作る、1人ひとりのチャレンジを応援し、迷っている時は、そっと背中を押すことだと思っています。そして、生徒たちには、大学進学をゴールにするのではなく、30代、40代になった時に『今の自分があるのは、明星があったから…』と振り返ってもらいたい。そのような学校づくりを目指していきます。
本校は『和の精神のもと、世界に貢献する人を育成する』という建学の精神のもと、1923年に創立し、もうすぐ100周年を迎えようとしています。その精神は脈々と受け継がれ、私たちは今、グローバル化社会で活躍するリーダーの育成を図っています。そのためにも『見える学力』と『見えない学力』を大きく育てていきたい。明星の次の100年に向けて礎を築きたいと考えています」
<取材の補足と感想>
2016年に福本校長(当時は副校長)が同校に着任して、最初に行ったのが、教員の研修だったという。先生が変われば、生徒も変わり、生徒たちの変化を目の当たりにすることで先生たちのモチベーションも上がる。このような良い循環が学校に勢いをもたらしている。現在は、各教科の研修会を制度化し、より良い授業を目指して先生たちが研究を重ねているそうだ。
ここ数年、学校改革を進め、進学実績を伸ばしている同校だが、どこかおっとりとした校風や、部活動の熱さなどは今も変わらない。そのバランスが、「基礎学力は必須としても、人間力を身につける教育を大事にしたい」という福本校長の思いとつながっているように感じた。