スクール特集(東京立正高等学校の特色のある教育 #5)
社会問題について他校の生徒と語り合う「日本の未来を思考する学校間交流会」
東京立正高等学校が、第二回「日本の未来を思考する学校間交流会」を開催。今年は沖縄の興南高校と石川県の輪島高校を迎えてオンラインで交流した。校長先生と生徒インタビューを交えてレポートする。
「日本の未来を思考する学校間交流」を企画した校長の思い
2023年からスタートした「日本の未来を思考する学校間交流」。この企画が生まれた経緯について、校長の梅沢辰也先生に話を聞いた。
「今、日本で起こっていることについて、学生たちにはもっと目と耳を傾けてほしいと思ったことがきっかけです。学生たちは勉強、部活動に忙しく、なかなか社会で起こっていることに目を向ける時間がないことは我々もわかっています。しかし、日本で何が起きているかを知らないまま18歳で選挙権を得て、東京立正を卒業していくことは避けたかったのです」
学校として、生徒のために何ができるかを考えたときに、できるだけ自分事として捉えられるように身近な社会問題をテーマに、同じ高校生同士で語り合える場を作ろうと考えた。それが「日本の未来を思考する学校間交流」だ。
「日本国内の各エリアの学校と繋がって、若者ネットワークで社会問題について語り合う場を作ろうと思いました。北方領土、沖縄の歴史、辺野古基地など、日本が抱える問題であることがわかっていますか? と。改めて問いながら、日本の問題であることをまず生徒たちが知ることから始めました」
第一回は、沖縄の興南中学高等学校と北海道の根室高等学校との3校で交流会を開催。そして今回は、招待校として石川県立輪島高等学校が参加した。スケジュールの都合で根室高等学校は不参加となったが、沖縄の興南中学高等学校との3校で生徒と活発なやりとりを行った。
▶︎校長 梅沢辰也先生
食品ロスを解消する「りんご甘酒」プロジェクト
「日本の未来を思考する学校間交流」は夏休み期間中にオンラインで実施。内容は、学校紹介と独自の取り組みについてパワーポイントでまとめた資料とともに代表者が語るというスタイル。各校、最後に質疑応答の時間も設けた。
トップバッターは東京立正高等学校。学校紹介では力を入れている部活動について。全国大会に出場するクラブが多いことなどを写真と共に紹介してアピールした。そして学校独自のイベントや地域交流などについてはクイズ形式で出題。興南と輪島の生徒がクイズに参加しやすくするため、東京立正の生徒たちがみんなで「イエ〜イ!」とにぎやかに盛り上げていた。
東京立正高等学校にはスタンダードコース(勉強と部活のバランス重視クラス)、イノベーションコース(SDGs社会貢献人材育成クラス)アドバンストコース(国公立難関私大挑戦クラス)という3つのコースがあるが、今回のイベントに参加したのはイノベーションコースの高校2年生だ。交流会で彼らが発表した取り組みは、SDGsの一環として関わった「りんご甘酒プロジェクト」。アップリサイクルからマーケティングまで取り組む活動で、クラウドファウンディングで資金を集め、目標額の200万円を達成。それを元にプロジェクトを本格的にスタートした。それぞれの生徒が、リンゴの選定、パッケージのデザインなどについて具体的に語り、「りんご甘酒」の企画、実行、販売まで簡潔に説明した。
創設14年目!中高の生徒が所属する「興南アクト部」
続いて、興南中学高等学校、輪島高等学校が、それぞれの学校紹介と取り組みについて説明した。興南の取り組みは、同校の「興南アクト部」について。約100名在籍する人気クラブで、首里城を中心に修学旅行生に沖縄の魅力を伝えるガイド活動を行っている。14年目にして、全国の修学旅行生の受け入れ数が1万人を突破した。2019年に首里城は火災で焼失したが、復元の間、バーチャルリアリティで再現した首里城でガイドをするという新たな試みを実施するなど、沖縄の魅力とその活動の概要をテンポよく分かりやすくまとめていた。興南も「沖縄の言葉でありがとうは何というか」などのクイズで学校説明と取り組みについて盛り上げていた。大勢が在籍しているクラブだけあって、オンライン交流への参加者が3校で一番多く、生徒が画面に入りきれないほどだった。
能登半島地震の復興状況をリアルに語る
輪島高等学校は今回が初参加。学校の説明とともに、今年の初めに起こった能登半島地震による被害状況と生活をどのように立て直したのか、現在の復興などリアルなエピソードを2名の生徒が写真を提示しながら丁寧に語っていた。ライフラインの復旧、仮設住宅、学校の再開など状況は良くなってはいるが、まだ倒壊した建物の解体や道路がガタガタで整備が進んでいないことを説明。しかし、県民はみんな前を向いて頑張っていること、学校の再開で仲間との交流が戻ってきたこと、金沢と輪島をつなぐ道路の復旧が進み、金沢と行き来ができるようになったことなど、最後は明るく締めくくった。質疑応答では、輪島高等学校への質問が多かった。東京立正、興南ともに、生徒たちは“能登半島地震を風化させてはいけない”という気持ちを強めたのではないだろうか。
生徒インタビュー
【お話を聞いた生徒】
Mさん
Fさん
Sさん
※いずれも高校2年生 イノベーションコース
▶︎写真左より:Sさん、Fさん、Mさん
「りんご甘酒」を多くの人に知ってもらいたい
―まず「日本の未来を思考する学校間交流会」への参加のきっかけを教えてください。
Mさん
僕はやはり「りんご甘酒プロジェクト」について、多くの人に知ってもらいたい、完成までのプロセスを話したいという気持ちがあったので参加しました。
Fさん
他の高校の生徒たちと交流してみたかったし、自分たちはイノベーションコースの生徒として社会貢献につながるプログラムを勉強しているので、取り組みを発表したい気持ちもありました。あと、輪島高校の生徒さんは能登半島地震で大変だったと思うのですが、どうやって生活を立て直したのかというリアルな話も聞きたかったので参加しました。
Sさん
僕は先生から「日本の未来を思考する学校間交流会」の開催を聞いて、参加することは今後の自分の学びにつながると思い、参加することにしました。それからSDGsの取り組みなど、自分がやってきたことを発表する良い機会だし、他の県の高校や学校の生徒たちの取り組みなども知りたいと思いました。
―今回の交流会は、日本の課題に向けて起こしているアクションを同世代で共有し合うことが目的の一つであるわけですが、「りんご甘酒」と日本の課題はどう結びついていると思いますか?
Mさん
福島県は、まだ食べられるのに廃棄処分されるりんごが地域の問題になっています。僕たちはSDGsの活動として「食品ロス」を無くしたいという思いもあり、福島県の復興支援をしている山口こうじ店さんにご協力いただき「りんご甘酒」を共同開発しました。アップリサイクルやマーケティングなどの知識も学びながら「食品ロス」という課題解決に向けた商品ができたと思っています。
能登半島地震から完全復興していないことに衝撃を受ける
―今回、興南高等学校と輪島高等学校の生徒さんと交流して、印象に残ったことを教えてください。
Fさん
やはり輪島高等学校の能登半島地震の復興の話は興味深かったです。一番驚いたのは、水より電気の方が早く使えるようになったことです。水は1カ月くらいで使えるようになるのかなと思っていたのですが、水が使えるようになるまで3カ月もかかったというのは驚きました。
Mさん
僕も能登半島地震の復興の話が印象深いです。水が出ない期間、雪を溶かしてトイレの水として使用していた話を聞いて大変だったんだなと。僕らは水道の水は当たり前のようにあるものと思っているけど、ありがたいことなんだと改めて思いました。
Sさん
僕も同じく震災のことです。最近はニュースでも取り上げられなくなったので復興が進んでいると思っていたのですが、実際はまだ完全に元の生活に戻れていないことを知りました。一番驚いたのは、海が4mも隆起してしまったこと。海が広がっていた場所が隆起して土が見えている写真を見たとき、地震の規模の大きさとそれによって地形がこんなに変わってしまうんだとビックリしました。
―「日本の未来を思考する学校間交流会」に参加するにあたり、準備を進めてきたと思うのですが、大変だったことは?
Mさん
もともと授業でやったことを改めて発表したので、準備で大変だったことはなかったのですが、輪島高等学校への質問は悩みました。震災で大変な思いをしたと思うので、どこまで聞いて良いのかわからなかったからです。失礼な質問をしないようにとみんなでかなり話し合いました。でも丁寧に答えてくれたし、状況がよくわかりました。聞いてよかったです。
生徒をホームステイさせて活動体験をさせたい
―梅沢校長先生は、第2回の交流会についてどのような感想を持たれましたか? また今後について考えていることは?
校長先生
興南中学高等学校は、修学旅行の際にお世話になっているし、第一回にも参加してくださったので、興南のことはある程度、生徒もわかっていたと思います。輪島高等学校は初めてでしたが、やはり能登半島地震の話はリアリティがあり、体験者の話を聞くことの重要さを感じました。生徒たちも聞いた言葉や情報をどう活かしていくか、今はまだわからないかもしれないけれど、この経験はきっと、生徒たちの中に根付いていて、今後の活動に現れるはず。交流の様子を見て、そんな風に影響を与えているであろうと思いました。
―今後、この交流会をどのように発展させていきたいと考えていますか?
校長先生
本当なら2週間くらい生徒にホームステイをさせたいですね。実際に交流している学校に行って、活動に参加させてもらうことがいい刺激と学びになると思います。もちろん先方の学校の生徒さんにも本校に来ていただいて活動を体験していただくことがあってもいいと思います。簡単に決められることではありませんが、お互いの活動を知ること、体験すること、そしてディスカッションして理解を深めることができれば「日本の未来を思考する学校間交流会」の活動はより発展していくと思います。
<取材を終えて>
3校ともに積極的で質疑応答もにぎやかで見ていて楽しく、オンラインでもこれだけ盛り上がるのだと驚いた。各校の生徒たちは他校の質問に答えることで自分たちの活動を見直すことにもなったのではないだろうか。アウトプットだけでなくインプットも期待できる交流会。来年以降も大いに楽しみだ。