スクール特集(大成高等学校の特色のある教育 #4)

10分間休憩にも学食を活用!「大成スイーツ物語」
大成高等学校では、午前中の休み時間に学食でスイーツを販売。その背景や生徒たちの反応を取材した。
大成高等学校では、約9割の生徒が部活動に参加しており、朝練の後などは空腹に耐えながら授業を受ける生徒も多い。そこで、2019年度から10分間の休み時間にスイーツの販売をスタート。導入の背景について管理営繕担当の豊島裕介さんに話を聞き、女子生徒2人にインタビューした。
10分間の休み時間に小腹を満たして集中力アップ!
同校では、昼食前に小腹を満たせるように、2時間目終了後の休み時間にはパンやおにぎり、3時間目終了後の休み時間にはスイーツの販売を学食で行っている。
「育ち盛りの高校生は、大人が思っている以上に早い時間からお腹を空かせています。空腹に耐えながら『早くお昼にならないかな』などと思っている状態では、授業にも集中できないでしょう。お昼を待ちきれない生徒たちをなんとかしてあげたいと思い、本校が業務委託している学食にお願いして、10分間の休み時間にパンやおにぎりなどの軽食を販売するようになりました。スイーツも単発で入れてみたところ反応がよかったので、今年度から本格的に販売しています。販売される軽食は、どれも小腹を満たす程度の量です。脳のエネルギー源となる糖質をほどよく補給することで、生徒たちは以前より授業に集中できるようになりました」(豊島さん)
パンやおにぎり、スイーツは、すべて校内の厨房で作られている。販売価格は、ほとんどが100円。長い付き合いのある業者との信頼関係があるからこそ、ワンコインで生徒たちが喜ぶものを提供できているという。
「パンやスイーツの種類は、学食のチーフが中心となって考えてくれています。お釣りが不要なワンコインだからこそ、10分間で多くの生徒たちに手早く販売することが可能です。100円という価格設定の中で生徒たちが喜ぶものを考え、売れ筋を見極めて種類や量を調整して作ってくれています。パンは厨房のオーブンで焼き上げられていますし、チュロスやパウンドケーキなどのスイーツ類もすべて手作りです。パンの種類はハムチーズパン、カレーパン、チョコパンなど日によって様々。フライドポテトやアメリカンドッグなどの軽食もあり、生徒たちには選ぶ楽しみもあります。学食へ向かう生徒たちの笑顔を見れば、楽しみにしていることがわかります」(豊島さん)
「Sweets No.1フェア」開催日に販売の様子を取材
取材した日は「Sweets No.1フェア」の開催日だったので、いつもよりスイーツの種類が多く、定番ではないプリン、シュークリーム、チーズタルト、ガトーショコラなども販売された。定番スイーツの中で最も人気があるチュロスは、プレーンやチョコ、抹茶など、日によって種類が変わるという。パウンドケーキも種類が豊富で、この日は抹茶、きなこ、かぼちゃ、紅茶、ドライフルーツ、チョコなどを販売。この日販売されたスイーツの中ではバナナクレープだけが120円だったが、ほかはすべて100円である。
3時間目終了のチャイムが鳴ると、生徒たちが続々と学食に到着。昼食は食券による販売だが、スイーツは短時間でスムーズに買えるように現金で支払うことになっている。学食スタッフは、ショーケースの中からスイーツを手早く取り出して生徒たちに手渡し、混乱は見られない。どの生徒も嬉しそうに、スイーツを手にしていた。買った後は、学食で食べる生徒もいれば、教室に持ち帰る生徒もいる。休み時間が始まってから次々と集まってきていた生徒たちは、5分を過ぎたころから潮が引くようにいなくなっていた。教員が指示をすることもなく、生徒たちは自主的にチャイムが鳴る前に教室へ戻っていくのだ。そしてこの数分間で、ほとんどのスイーツが売り切れていた。
昼食は事前に公表、スイーツはサプライズ
学食の昼食メニューは、1週間分をホームページで公開。栄養バランスだけでなく、育ち盛りの生徒たちが満足できるボリュームも実現した日替わりメニューが提供されている。
「お弁当を持参する生徒が多いですが、中にはお弁当と学食メニューの両方を食べる生徒もいます。『明日は学食で食べたいから、お弁当は作らなくていいよ』と前もって保護者に言えるように、昼食は1週間分のメニューを公開しています。入学したばかりの1年生が学食を利用するきっかけ作りとして、校長が『入学おめでとうキャンペーン』を開催して、1年生にはデザートをプレゼントしました。学年を問わず気軽に学食を利用して、コミュニケーションを楽しむ場としても活用されています」(豊島さん)
パンやスイーツは事前告知をせず、日によって異なる品揃えで販売している。
「その日にどんなパンやスイーツがあるかは、学食へ行ってみてからのお楽しみです。10分間でほとんど売り切れてしまうので、買いに行った人だけがその日のラインナップを知ることができます。『今日は〇〇があったよ!』『行けばよかった!』などと教室で話題になれば、次回の楽しみにもなるでしょう。学校は勉強する場ですが、日々のちょっとした楽しみも必要だと思います」(豊島さん)
「食べること」は学校生活の中での楽しみの1つ
パンやスイーツの導入にあたり、決めたルールは「食べ歩きをしない」ことだけだった。細かく指導しなくても、生徒たちは自然にルールを守っているという。
「10分間という短い時間の中で、教室と学食間を往復して、授業が始まるまでには着席していなければなりません。当然、チャイムが鳴ってから教室へ戻るのでは、間に合いません。生徒たちは自分たちで判断して、チャイムが鳴る前に学食を出ています。今のところ、授業中にもぐもぐしている生徒がいるという話も聞きません。ルールを守れる生徒たちだからこそ、休み時間中にパンやスイーツを販売することが成立するのです。自分たちがルールを守らなければ、せっかくの楽しみが失われてしまうことを、生徒たちもわかっているのでしょう」(豊島さん)
学食の活用に関してはまだまだ発展の余地がある、と豊島さんは語る。
「学校生活の中で、『食べること』は生徒たちにとって楽しみの1つだと思います。友達とおやつや昼食を食べながら会話を楽しむ時間も、生徒たちにとっては有意義なものです。今後も生徒や学食スタッフの声を聞き、どのように発展できるか常に考えていきたいと思っています」(豊島さん)
2年生の生徒2人にインタビュー
(写真左からKさん、Yさん)
Kさん 2年生
Yさん 2年生
――どんなときに学食のスイーツを食べますか?
Yさん お腹の空き具合とその日の気分です。「今日は食べたい!」と思ったら、友達を誘って買いに行きます。朝食はしっかり食べる方ですが、それでもお腹は空きます(笑)。特に、寝坊して朝食を食べられなかったときはお昼までもたないので、途中で食べられるのはありがたいです。スイーツを食べた日は、「食べたから授業を頑張ろう!」と気分も上がります。
Kさん 私も朝食は食べますが、お腹は空きます(笑)。100円なので買いやすいですし、味も美味しいです。
――一番好きなスイーツはどれですか?
Yさん 私はチュロスが一番好きです。味はシナモンや抹茶など、いろいろあるので、友達と違う味を買ってシェアしたりします。休み時間中に食べ切れるサイズで、小腹を満たすのにちょうどいいです。チュロスが一番人気ですが、バナナクレープも女子に人気があります。
Kさん スイーツも好きですが、一番好きなのは唐揚げが丸ごと入ったおにぎりです(笑)。美味しくて大きさもちょうどよく、お腹いっぱいになりすぎることもありません。まだ食べたことがない人には、ぜひ食べてほしいです! もう1つ、チャーハンのおにぎりも気に入っています。
――定番スイーツ以外で、もう一度食べたいスイーツはありますか?
Yさん なかなか出会えませんが棒状のドーナツが出来たてでとても美味しかったので、あればまた食べたいです。パンは運動部の人たちに人気なので、出遅れると買えません。おにぎりも、私はまだ食べたことがありません。
Kさん おにぎりは本当に美味しいので、食べてほしいです(笑)。おにぎりやスイーツは種類が豊富なので、何度買いに行っても飽きることがありません。
――学食で昼食を食べることはありますか?
Yさん 基本はお弁当ですが、美味しそうなメニューの日は母に「学食で食べたい」と伝えておきます。学校のホームページに1週間分のメニューが公開されているので、計画を立てやすいです。お弁当の持ち込みもできるので、友達が学食で食べる日に一緒に行って、スイーツが残っていたら買ってしまいます(笑)。1年生のときに同じクラスだった友達と一緒にお昼を食べたいときに、学食で食べることもあります。
Kさん 私もお弁当が多いですが、学食の自販機に飲み物を買いに行ったときに、厨房で翌日の仕込みをしている気配を感じたりすると楽しみになります。生徒数が多いので、大人数の分を作るのは重労働だと思いますが、おにぎりやスイーツ、昼食など、どれも美味しいので学食の存在は本当にありがたいです。スタッフの方はいつも笑顔で、ササっと手際がいいので短時間で買うことができます。
――この学校のいいなと思うところを教えてください。
Kさん 先生と生徒の距離が近いので、授業でわからないところがあったときなども質問しやすいです。職員室前に机とイスがたくさん並べられていて、放課後などにそこで先生に教えてもらうこともできます。特にテスト前はみんな利用していているので、あのスペースを考えた人に感謝です。図書室の奥にも自習スペースがあり、静かに勉強したい人はそちらを利用しています。
Yさん 体育祭や文化祭などの行事は盛り上がり、テスト前は勉強モードに切り替わるなど、メリハリがあるところが好きです。文化祭の前などは遅くまで残って準備をしていても、下校時刻が近づくとちゃんと片付けをし始めて、ダラダラしている生徒がいないのがいいなと思います。学校全体の雰囲気が明るくて、生徒は元気で先生もノリがいいので楽しいです!
<取材を終えて>
学食での取材中、学食スタッフが生徒たちにかけるちょっとした言葉の温かさが印象的だった。例えば、友達の分も合わせてバナナクレープ(120円)を3つ買った生徒にかけた、「ちょうどの金額を用意してくれたのね。ありがとう」という言葉。忙しい中でも、「ちょうどの金額で助かった」ことをきちんと伝えていた。言われた生徒が意図してちょうどの金額にしたかはわからないが、きっと今後もできるだけちょうどの金額を用意しようと思うだろう。スイーツを買うために急ぐ生徒たちが、取材をしていた私たちに気づくときちんと挨拶をしてくれた。このようなコミュニケーションの積み重ねが、良好な人間関係を構築していくベースとなるに違いない。