スクール特集(品川エトワール女子高等学校の特色のある教育 #3)
ICT活用度が激変! 短期間でここまで変われた「エトワールの変化力」
一斉休校中、ICTの活用が急速に進んだ品川エトワール女子高等学校。卒業式から約3か月間、どのような変化があったのか取材した。
新型コロナウイルスの影響により、十分な準備ができないまま全国の学校が一斉休校となった。学校ごとに対応は様々だが、品川エトワール女子高等学校では、オンライン授業の前にオンラインでの心のケアをスタート。その後、ホームルームなどを経てオンライン授業へと進めるまでのICT活用度の変化について、ICT教育チームの河原弘幸先生(情報科)、田川清美先生(ICT支援)、松永貴子先生(養護)に話を聞いた。
心のケアから始まったオンライン授業までのステップ
3月に行われた卒業式は、新型コロナウイルスの感染拡大を抑止するため、卒業生のみの参加として保護者は出席を自粛した。しかし、なんとかして保護者に卒業生の晴れ姿を見せたいという思いから、急きょオンラインでのライブ配信を実施。Web会議ツール「Zoom」を使い、リアルタイムでの様子を伝えることができた。
「保護者の皆様にとても喜んでいただき、至らない点も多々ありましたが温かいお言葉を頂戴しました。このとき、保護者の皆様に温かく受け止めていただけたことで、たとえ完璧ではなくても、今できることをやっていこうという気持ちになれたのだと思います」(河原先生)
新学期になっても学校を再開することができず、当初は印刷した「学年だより」を郵送したり、担任が電話で連絡したりという状態だった。しかし休校は長引き、これまで経験したことのない状況の中で「変化」が求められることに。そのような状況で、いきなりオンライン授業を開始するのではなく、生徒たちにとって必要なことは何か、優先順位をしっかりと考えて対応していったと河原先生は振り返る。
「休校が長引くにつれて学習の遅れを心配する声が大きくなってきましたが、私は授業の前に、生徒たちの心をケアする必要があると考えました。いきなりオンラインで授業を始めても、生徒たちはついてこないと思ったのです。養護の松永先生からも提案があり、まずは心のケアができるようにLINEの窓口を開設しました。その後、Zoomを使った担任による個別面談、続いてクラス全員でホームルームを行うようになり、生徒たちの自己紹介などもオンラインで実施。さらにそこから、学年全体での集会まで発展させました。これらのステップを踏んだことにより、新入生にも『エトワールの生徒』である自覚を持たせることができ、オンライン授業や学校再開に向けた『階段』を作ることができたと思います」(河原先生)
▶︎写真左から松永先生、河原先生、田川先生
オンライン授業に関しては、iPadを持っている国際キャリアコースがトライアルとして先行し、その後他のコースも試行錯誤しながら実施。これまでICTを活用するきっかけがなかった教科も、現場主導でアイデアを出して次々とオンライン授業に取り組んだ。「やったことがないからできない」と思わず、「やってみよう」という気持ちを持って、まず1歩を踏み出せたことが大きな変化につながっていったと河原先生は語る。
「手探り状態の中で、教員同士で授業を見せ合い、協力する様子が見られました。担任同士、教科間でのコミュニケーションも増えて、『どうやってる?』などと気軽に聞ける雰囲気ができたのもよかったと思います。これまでは授業を1人で任されているという感覚だったのが、協力し合うようになり、教員たちの間で相乗効果が生まれたことも大きな変化の1つです。今では全学年、全部の授業がGoogleのClassroomに登録されています。休校をきっかけに200以上の授業が登録され、ホームルームや授業の連絡をオンラインでできるメリットにも気づくことができました。教員だけでなく、生徒たちも頑張って取り組んでいるので、ICTをより活用していけるように今後も教員や生徒たちをサポートしていきます」(河原先生)
心をケアするためのLINE窓口を開設
心のケアをするためには、相談しやすいツールがよいと考え、生徒たちが気軽に利用できるLINEの窓口を開設した。
「4月中は担任が電話で連絡するなどしていましたが、担任と生徒のつながりが薄いと感じていました。学校に電話をしても教員が常駐しているわけではないので、生徒が気軽に連絡できる手段がなかったのです。そこで、LINEの窓口を開設してコミュニケーションをとることを河原先生に提案しました。窓口を開設したことを生徒たちに発信すると、すぐに登録してくれたので、使い慣れているツールだったのがよかったと思います。生徒だけでなく保護者の登録もあり、『何かあったときによろしくお願いします』『相談できる窓口ができて安心です』などのメッセージをいただきました」(松永先生)
LINEという気軽に使えるツールを使ったことにより、普段から保健室に来ている生徒だけでなく、これまで話したことのない生徒ともコミュニケーションが取れたという。
「家にいる時間が長くなると、家族との関わり方も通常とは変わってきます。友達とも会えない中で運動も思うようにできないと、ストレスをうまく発散することができません。そのようなモヤモヤした状態でいた生徒たちも、LINEでやりとりをすると気持ちが晴れるようで、やりとりをした後には『今日は大丈夫そう』などの言葉が返ってきます。区切りがつくまで対話を続けるので、中には1時間半ぐらいやりとりした子もいました。一方で、しっかり相談したい生徒向けには、スクールカウンセラーがZoomを使って対面での面談も行い、2つの方法で心のケアをしています」(松永先生)
分散登校が始まると、初めて顏を合わせる新入生たちも、登校初日に1人も欠席することなく集まることができた。
「新入生たちも、オンラインでのつながりによりクラスの雰囲気をつかむことができたのでしょう。休校中にオンラインでつながっていたことが、いきなり学校で対面するよりもよい準備期間になった生徒もいるかもしれません。学校再開後、休校中のストレスチェックをするためにアンケートをスクールカウンセラーと行いました。メンタル面について、新型コロナウイルスに対する不安だけでなく、休校中に心配なことはあったか、学校が始まったらどんなことが楽しみか、などの質問をしました。『友達と遊びたい』などの回答が多いと想像していましたが、『学校での授業が楽しみ』『授業で質問したい』など、授業への期待も多かったことが意外でした。オンラインでの授業はたいへんだったけれど達成感あったという声もあり、休校中もオンラインでつながっていたことが、学校での授業という次のステップに進むための意識を育んでいったのだと思います」(松永先生)
ICTサポートのLINE窓口も開設
国際キャリアコースの在校生たちはiPadを持っていたが、それ以外の生徒たちは各家庭にある端末を利用してオンラインでのやりとりが行われた。端末や接続環境が異なる中、様々なトラブルに対応するためにICTサポート用のLINE窓口を開設。田川先生は学校で待機して、「ログインできない」などのトラブルに対応した。
「問い合わせがあると、まずは端末や接続環境の把握から始めました。最初のころはログインできないという問い合わせが多かったのですが、Zoom側の問題ではじかれてしまうこともありました。何をやってもログインできない状態が続くと、生徒たちが『自分はできない』と自信なくしてしまう心配があります。ICTを活用して将来的には強みにしてほしいという思いもあるので、ここで苦手意識を持たせないことが大切です。ログインできないと諦めるのではなく、次につなげられるようなやりとりを心がけました。問い合わせしてくれる生徒はチャレンジしたい気持ちがあるので協力的で、こちらが指示することをしっかりとやってくれます。その積み重ねを、次の問い合わせに活かしていくことができました。同時に複数の生徒から問い合わせがあったときはたいへんでしたが、話したことのなかった生徒たちとやりとりできたことや、生徒たちがICTに興味を持ってくれたことが嬉しかったです」(田川先生)
生徒たちからの問い合わせにはLINEや電話で対応した一方で、校内では教員からの質問に対応。ほとんどの教員がオンライン授業に取り組んだので、問い合わせも急増したという。
「たくさんの先生から問い合わせがあり、今までより多くの先生がICTを活用してくれたことが嬉しかったです。ICTに抵抗があった先生もいたかもしれませんが、Zoomの使い方や見せ方など、それぞれ工夫して取り組んでいました。予期せぬ休校ではありましたが、ICTを活用していく上ではよいきっかけになったと思います。先生方もチャレンジしていることが生徒や保護者の方たちにも伝わって、安心してもらえたようです。多くの保護者から『先生が頑張っているから、自分たちにもできそう』という声をいただくなど、今まで接点がなかった保護者と先生方がICTを通してまとまろうとしていると感じられました」(田川先生)
これで終わりではないエトワールの「変化力」
約3か月間で、同校のICT環境は大きく変化した。しかし、これで終わりではなく、これからも変化し続けていくと語る3人に、それぞれの立場から今後のICT活用について聞いた。
「分散登校が始まりましたが、LINEでの相談は続けています。心のケアは、秘密を守る約束のもとで信頼関係を築いていくので、これまでは個室で相談を受けてきました。生徒たちにとっては、小さい部屋の方が話しやすいようです。しかし、感染防止対策として小さな個室での相談が難しいので、オンラインでの相談も続けていきます。長期休暇後の登校に不安を抱く生徒へのケアも重要なので、ストレスアンケートは夏休み明けなどのフォローにも活かせると思います。GoogleのClassroomなども有効活用して、オンラインでできるケアを私なりに提案していきたいです」(松永先生)
「今回、ログインできないなどの問い合わせをしてこなかった生徒たちの中にも、なんらかのトラブルが発生していた子がいるかもしれません。そのような、見えてこない生徒たちのフォローもしっかりとしていくことが今後の課題だと思います。ICTに苦手意識を持たず楽しく課題に取り組めるように、そして将来役に立つように、生徒たちがやりやすい環境を整えられるように模索していきます。ICT活用という意味では3月と比べると驚くほど進みましたが、これが完成ではなく、今後どう活用していくか考え、改善すべきところはしていくことが大切です。エトワールの先生方が持っている探究心や対応力、発想力などが今回よい形で発揮されたと思うので、新しいツールが加わったことで今後また何か起きても瞬時に対応していけると思います。司書など教員以外にも活用していきたいという思いが強まっているので、これからの展開が楽しみです」(田川先生)
「できることは全部やっておこうという気持ちで、休校中にICTを活用してきました。分散登校が始まってからも、登校していない生徒たちにオンラインで集会をするなどしてフォローしています。学校が本格的に再開すれば必要なくなるものもあるかもしれませんが、家庭とのコミュニケーションのチャンネルが増えたことは、今後にも活かせる変化です。例えば、仕事などで保護者が学校に来られない場合でも、オンラインで三者面談ができるようになりました。受験生向けの学校説明会などもまだ難しい状況なので、オープンキャンパスをオンラインで行うことも決まっています。学校の様子を見せたり、教員や在校生とコミュニケーションを取ったり、部活紹介などもオンラインでやってみたいと考えています。受験生向けに、入試のお役立ち情報を配信するLINEの窓口も開設しました。気軽に登録していただけたら嬉しいです」(河原先生)
<取材を終えて>
ICTの活用は、ハード面を整えれば始められるというものではないだろう。何かトラブルが起きたとき、生徒や教員をサポートする人材が重要な役割を果たす。同校では、共通の端末はそろっていなかったものの、生徒や教員を支えてトラブルを解決してくれる存在があったからこそ、短期間でここまでのことができたのだと思う。そして、慣れない中でも1歩を踏み出した教員たちの頑張りが伝わったから、生徒たちもなんとかして「つながろう」という気持ちになれたのだろう。同校では、オンラインでのオープンキャンパスのほかに、少人数・予約制での「エトワール体験・相談会」も新たに企画されている。今後も、同校の「変化力」に注目したい。
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