スクール特集(雲雀丘学園高等学校の特色のある教育 #2)
「授業研究大会」で先生の授業力を向上
2017年11月に第1回「授業研究大会」を開催。大会当日は全国から私立・公立中学校、高校、大学の教員などが多数参加されました。今回の「授業研究大会」の模様をレポートするとともに、学校が行っている教育改革を校長先生にお伺いしました。
雲雀丘学園では、21世紀にふさわしい「新しい授業」をめざして、さまざまな教育改革を行っています。
学校の意気込みは、大学合格実績にも表れています。近年京都大学・東京大学・大阪大学・神戸大学などの難関国公立大をはじめ、関関同立・有名女子大など難関私立大に多数の合格者を出しています。2017年春は、東京大学1名、京都大学2名、大阪大学14名など国公立に計99名、東京大学理Ⅲ、京都大学医学部医学科など計3名が現役合格しました。
2017年11月、雲雀丘学園では第1回「授業研究大会」を開催しました。これまで校内の教員研修として行っていた公開授業を、外部の教育関係者にも広く公開し、授業の向上に役立てることがねらいです。大会当日は、私立・公立中学校、高校の教員、大学教員などが全国から多数参加しました。
学校が行っている教育改革や「授業研究大会」について、校長先生にお話をうかがうとともに、大会のもようをレポートします。
雲雀丘学園中学校・高等学校 校長 中井 啓之先生のお話
生徒が能動的に学ぶ授業への転換
本校では、授業のあり方を見直し、「新しい授業」をめざして、近年さまざまな取り組みを行ってきました。「研究授業大会」は、学校の取り組みをさらに発展させるための、大きな一歩となるものです。
いま、なぜ「新しい授業」をめざすのか。それは時代状況や、国の教育改革と直接かかわっています。
グローバル化や情報化などが急速に進む現代、国では教育改革を推し進めています。「新しい授業」は、改革の主なテーマとなっています。教員による講義型の授業から、生徒が能動的に学ぶ授業へ、また、友だちや教員と意見や情報を交わしながら共に学ぶ授業への転換を掲げているのです。こうした学びを、国では「主体的・対話的で深い学び」という言葉で表しています。そして、2020年より新しい授業への転換を本格的に進めることを打ち出しています。同年には、大学の新入試制度もスタートします。
▶校長 中井 啓之先生
「授業改革プロジェクトチーム」を設置
「新しい授業」をめざして、本校では教員が力を合わせて学校全体で取り組んでいます。そして、これまでの取り組みに加えて、2015年より新たに「授業改革プロジェクトチーム」を立ち上げました。若手教員がメンバーとなって授業研究を進め、各教員に広めています。
指導主事も2015年より新たに設置しました。先輩教員2名が指導主事となり、各教員へアドバイスを行います。また、本校では全教科で生徒への授業アンケートを年2回実施しています。指導主事はその結果を各教員にフィードバックし、授業の改善に役立てます。
校内での授業研究も積極的に行い、教員が互いに授業を見学し合ったり、大学教員などを招き、指導をしてもらったりして授業の向上に取り組んでいます。
「脳内」が活動的になる「アクティブラーニング」
「新しい授業」の一つとして、「アクティブラーニング」を取り入れています。これは、友だちとの協働作業を取り入れながら能動的に学ぶ授業のことです。たとえば、グループで協力して調べたり、話し合ったりしながら課題を解決していきます。ただし本校では、生徒が実際に活動しながら学ぶことだけを「アクティブラーニング」ととらえるのではなく、「脳内」を活発に働かせながら学ぶことも「アクティブラーニング」ととらえています。
今回の「授業研究大会」では、中3のCLILの授業を公開します。CLILとは、内容と言語の両方に等しく焦点をあて、さまざまなレベルの思考力を活用する指導法です。本校の英語教員は、イギリスの大学でのCLIL研修会に参加するなど、授業研究に力を入れています。そして、本校の生徒に合ったオリジナルのCLILの授業を開発しました。それによって生徒たちは授業の内容に知的な関心を示し、脳内を活発に働かせながら英語力を養っています。これもまさに「アクティブラーニング」です。
サントリーの研究室など外部との連携を推進
「新しい授業」のために、学校外の人材の活用も積極的に行っています。教員は、生徒と外部をつなぐコーディネーター役となって、生徒を社会のさまざまな人たちと触れさせます。雲雀丘学園高校では、サントリーの研究所との連携教育や、大学との連携教育の実績があります。雲雀丘学園の初代理事長はサントリー創業者の鳥井信治郎であり、学校創立時から続く同社とのつながりを「新しい授業」にも生かしています。さらに、行政機関や企業などとの連携も行っています。
ICTの活用も「新しい授業」と結びついています。本校では、電子黒板型プロジェクターを全教室に設置し、教師用と生徒用のタブレット端末を配備しています。授業ではこうしたICTを活用し、「主体的で対話的な学び」に役立てています。
All HIBARI Challenge!!
以上のような取り組みを進めるなかで、今年度は私たちの授業を広く外部の人に見てもらおうという新たな目標を加えました。教育関係者を招き、意見や批評をいただき、それを本校教員や来ていただいた人たち全員と共有したいと考えます。そして、授業をさらに良くしていきたいというのが大きなねらいです。
「授業研究大会」では、日ごろの授業をそのまま公開します。この日のために特別に用意した授業ではありません。また、どれも本校の教員が本校の生徒の実態に合わせて考案した自前の授業です。中1から高3まで全学年で公開授業を行います。高3では大学受験対策の授業も公開します。
Usual(日ごろの), Self(自前の) ,Open(全公開), All HIBARI Challenge!! これが大会のスローガンです。頭文字を取るとUSO! となりますが(笑)、偽りという意味ではなく、「ウソ! 本当に!?」というリアクションの意味です(笑)。鳥井信治郎先生は、社員の新しい提案に対していつも「やってみなはれ」と背を押し、サントリーを発展させました。本校も「やってみなはれ」の精神でこれからもさまざまなことにチャレンジし、教育を向上させていきます。
~「授業研究大会」レポート~
「授業研究大会」では、次の授業が公開されました。
中1数学「空間思考のための具体物を用いた授業」
中2国語「論点を探る」
中2英語「英語落語を活用した4技能指導」
中3英語「CLIL(内容言語統合型学習)による授業」
中3社会「まちづくりを考える」
以上のほか、高校では、タブレット端末を用いた授業(数学)、サントリー生物有機科学研究所で行った実験の発表(生物)、鳥取大学との連携講座で学んだことの発表(生物)、センター試験演習(国語)などの授業が公開されました。
当日は県内や大阪、京都をはじめ、遠方は静岡、三重、広島の学校の先生や、上智大学・兵庫教育大学の先生など130人もの参加者があり、盛況でした。公開授業のあとは、参加者との研究協議が行われました。
中3英語「CLILによる授業」
中3英語「CLIL(内容言語統合型学習)による授業」では、「ペットボトル」を題材とした授業が行われました。ペットボトルの特徴や飲料水の性質、ボトルの形状と中身の飲料水との関連性など、理科とかかわりのある話題について、ICTも活用しながら、英語で考えていきます。英語教員が理科教員にも相談しながら作成したオリジナル教材を使用。
授業では英語の4技能をまんべんなく学習します。それもすべての生徒がつねに活動するよう工夫され、生徒たちが集中力を絶やすことなく学ぶ姿が見られました。たとえば、ペットボトルの特徴について各自でまとめた英文を3人のグループ内で伝え合うときは、聞く側の生徒は聞き取ったことを英語でメモします。そして3人が異なるボトルについて順番に同じ練習を行います。ジグソー法を用いることで、一人一人が自分の役割に責任をもってとりくみます。さらに、応用課題としてグループで協力してペットボトルを考案し、前に出て英語で発表します。
授業はネイティブ教員と日本人教員のティームティーチングで、ほとんど英語のみで進められます。生徒はそれを熱心に聞き取ろうとしていました。授業の最後に、ネイティブ教員が映像を見せながらプラスチックのペットボトルと環境問題について話したときも、生徒たちは強い関心を示し、耳を傾けていました。次回の授業では、最新のペットボトルや企業の取り組みなどについて動画を視聴し、自分の考えをまとめます。
身近なペットボトルを題材に理科の要素を取り入れることで、学ぶ内容への興味関心と、英語学習がしっかりと結びついているようすが伝わってきました。生徒からはこうしたCLILの授業について、「授業で習わない専門的な英語を知ることができてよかった」「もっと単語を覚えたい」「達成感があった」「自分の意見をしっかり持ち、他の人に発表することの難しさを知ることができた」など、学ぶ喜びや意欲のこもった感想が寄せられているそうです。
中2の英語落語『時そば』
中2の英語では「英語落語『時そば Time Noodles』」の授業が公開されました。雲雀丘学園中学校では以前より英語落語を授業に取り入れており、毎年11月に開かれる全校英語暗誦大会で、2年生はその成果を発表します。今年の課題は『時そば』です。
英語を学びながら日本の伝統芸に触れ、それを暗誦し、抑揚豊かに表現できるようにするという、こちらも生徒が主体となって活動的に学ぶ授業で、やりがい充分です。公開授業では、まずペアになって英語の『時そば』を練習しました。『時そば』の登場人物を二人で分担し、身振りを交えながら演じます。英語暗唱大会に備えてすでに全部暗記している生徒もいて、とても上手です。
授業の後半は、「アテレコ」にチャレンジします。まず、先生が見本をやってみせます。ネイティブ教員が『時そば』の身振りのみを行い、日本人教員が言葉を乗せていきます。さあ、みんなもやってみよう! 生徒たちは楽しそうに取り組んでいました。身振りをする側、話す側、息が合うよう気をつけなくてはいけません。英語を声に出して言うのがちょっと恥ずかしい生徒も、相手のために頑張りました。
中3社会「まちづくりを考える」
中3社会科では「まちづくりを考える」をテーマに、地元の宝塚市の現状を把握し、よりよい町づくりをめざして自分たちで提案します。
この授業では、これまでに観光・財政・都市計画・交通など各分野から市の担当職員をゲストティーチャーに招き、講義をしてもらっています。それをふまえて、班ごとに協力して宝塚の町づくりに関する課題を見出し、調査を行い、解決策を考えてきました。公開授業では市職員も招いて、その発表が行われます。
市の活性化を考えた班は、宝塚駅に若者向けのアミューズメントビルを建設することを提案しました。ある班は経済効果の視点から、尼崎市の塚口駅と伊丹市の伊丹駅を結ぶ阪急伊丹線を宝塚駅まで延伸し、さらに宝塚駅に大型ショッピングモールをつくることを提案。どの班も具体性のある頼もしいアイデアを発表しました。自分たちの考えの根拠となるデータなども示し、模造紙やパソコンを用いてわかりやすくまとめています。声も大きく、元気です。司会進行も生徒がテキパキとこなします。
発表を聞くほうの生徒はプリントに感想を書き込み、前に出て述べます。「高齢化が進むなか、若者のことを考えているのがよかった」「プレゼンが上手で楽しかった。目を見て話すアイコンタクトもよくできていた」「プロジェクターで図や画像を見せることで理解しやすかった」など、具体的な感想を述べていました。市の職員も一つひとつの班に向けて努力を称え、コメントを寄せました。
高い教育力で発展する雲雀丘学園
中2国語「論点を探る」では、グループでiPadを1台活用しながら課題に取り組み、発表します。「読む・書く・聞く・話す」の4技能について、論理性や説得力を意識した学習が行われていました。中1数学「空間思考のための具体物を用いた授業」では、道具を使って正四面体・正八面体を組み立て、さらにグループで協力して課題に向かいます。自分の考えを数学的な表現で伝える力を養いながら、理解を深めていく授業が行われました。
どの授業も、生徒が先生の話を終始受け身で聞くというこれまでの授業とは大きく異なりました。教師は生徒が自ら学ぶようさまざまに工夫し、働きかけます。生徒の興味関心を刺激し、やりがいのある課題を与え、意欲や潜在力を引き出していました。また、友だちや外部の人とかかわり、協働作業や言語活動を多く行うことも特徴です。それによって、思考力や課題解決力、協働する力、コミュニケーション力、表現力などを総合的に養っています。雲雀丘学園中学校の先生方の教育力や熱意、チャレンジ精神、そして生徒への愛情がひしひしと伝わる「授業研究大会」でした。今後の「新しい授業」のさらなる発展が大いに期待されます。
この学校のスクール特集
親心と「やってみなはれ」の精神で生徒の成長を後押し
公開日:2017/2/3